米国で自信を失っています

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聞いてみよう 子どもの教育

「子どもは、日本では成績が良かったのですが、アメリカに来てすっかり
自信を失っています。英語を覚える気持ちも、減退しているようです。」

 親の海外転勤に伴い、現地の学校への入学を余儀なくされる子どもたちは、第二言語で学習していくことになります。英語圏では、英語を習得しながら学校での授業に出席し、日々、宿題をこなしていかなければなりません。学習言語を母語である日本語から英語に変えるということは、容易なことではなく、本人の努力は勿論のこと、保護者の学習面、精神面でのサポートが不可欠でしょう。
異文化社会の中で現地の教育を受ける子どもは、言葉の壁に阻まれ、自分の実力が発揮できない状態がしばらく続くことになります。その暗闇の中で自分に自信を失い、やる気を無くしていく子どもはたくさんいます。彼らには、一刻も速く手を差し延べなければなりません。

(1) 英語で学ぶということ

「アメリカで子どもを教育するなら現地校で・・・」と、殆どの日本人家庭は現地の学校を選択しています。その中で、第二言語である英語で学ぶということはどういうことなのか、保護者は理解しておく必要があります。
昨日まで日本語で学習していた子どもが、いきなり異文化社会に入り「英語」で学ぶことになりますが、その状況は、しばらく学習できない状態が続くということです。その間の子どものショックは大きく、様々な苦悩を抱えることになります。「夢であってほしい!」と願いながら、ダルマのように手も足も出ない状況を変えるために、保護者や周りの大人は、日々、どのようにサポートしていったらよいのでしょうか。

① アメリカの学校教育を理解する

現地校を選択された保護者は、まず、アメリカの学校教育というものを理解して下さい。公教育における教育理念、システム、授業の内容や進め方、成績の付け方等々、日本とはまったく異なっています。それらを序々に理解し、内容を把握しておきましょう。
また個人主義の国アメリカは、”個人”を認め尊重する社会であるということを、教育の中で教え込まれていきます。そして学校教育における”考えさせる教育”は、物事を論理的に組み立てる力を養います。自分自身の考えをしっかり持ち、その考えを相手に伝えることができるように育てるわけです。また、子どものやる気を起こさせる”褒めて育てる教育”も、大きな特徴と言えるでしょう。
それらは、アメリカの教育を受ける中で確実に培われますので、日本人子女の成長過程の中で、ぜひ注目をしたいところです。

② 日本での学力が土台になる

英語で学んでいけるかどうかは、日本語での学力が影響を与えます。つまり日本の学校でよい成績を取っていた子どもは、現地の学校でも時間の経過と共に、ぐんぐん力を付けています。自信を失うことはまったくありません。自分の学力を信じて、コツコツ学習を続けることが大切です。
日本語での読解力がある子どもは、英語のリーディングもできる、日本語で作文力がある子どもは、英語のライティングにもその力が移行しています。

③ 現地校は、英語学校ではない!

せっかくアメリカに住むのだから英語を習得してほしい、という保護者の願いは分かりますが、現地校は”英語学校”ではありません。英語で学ぶことにより、結果として「英語」という言語が習得できるわけです。
とかく海外の日本人社会では、英語力の優劣だけが問題視され、それが子どもたちにプレッシャーを与えているのが実情です。また、資格などに惑わされてより高い”級”の取得を目指し、子どもがそのための勉強もしなければならない現状を見聞きするたび、現地校での学習だけでも苦しいのに、なぜ、それ以上のプレッシャーを与えるのだろうか、という思いに駆られます。また、日本に戻る子どもが避けて通れない入学試験。英語力ばかりが試験に求められ、合否の判断になっている現状はいかがなものでしょうか。
子どもが自信を失い、やる気さえ無くしていく原因は多々ありますが、この”英語力競争”もその一つです。なぜ現地の学校で教育を受けさせたいのか、どういう子どもに育てたいのか、保護者はしっかりした教育方針を持って、大切な子どもを育てなければなりません。

(2) 自信を失わせないために!

海外での生活は、スタートが肝心。最初のつまずきを長引かせると後々まで影響することがあります。
入国年齢や性格にもよりますが、小学校4,5年生以上の子どもが現地校に編入したとき、自暴自棄になり、いわゆる”問題児”となるケースがよくあります。先生は何を言っているのか解らない、授業の内容もさっぱり理解できない、友達とも遊べない、朝からクラスで座っていても暗闇の世界で頭も痛くなる毎日で、ストレスが溜まってくることにより、気力を無くしたり、トラブルを起こしたりします。
その中には、家庭に問題がある場合もあります。保護者自身の異文化不適応、子どもへのサポートが不十分な場合にも、これらの現象が現れますので要注意です。では、子どもが自信を持って現地の学校で学習できるようにするためには、どのような対策があるのでしょうか。

① これまで通り、日本語でどんどん学習を続けましょう。

日本で使っていたテキスト等で、続けて学習させるようにしましょう。補習校や塾で国語・算数を学んでいる子どもは、これまでの学力を発揮できるよい場所と考え、学べる喜びを味あわせてあげることが大切です。「現地校に入ったのだから、とにかく英語、英語!」と焦る保護者の方も少なくないのですが、焦ってもそう簡単に英語を習得することはできません。日本語での学力が、英語で学んでいく上で必要不可欠であることを考えると、これまでの学習はストップすることなく、引き続き進めていくことが大切です。
もし落ち込んでいる子どもがいたら、魔法の言葉を一言。『いま英語で学習することは難しいけれど、日本語での勉強ならできるでしょ!英語力が付けば、あなたならきっとできる!』。どうかポジティブな言葉がけで、励ます努力をして下さい。”褒めて育てる”ことを信条としているアメリカの子育て方法を参考に、”できない”方を取り上げるのではなく、”できる”方に焦点を合わせ、気持ちよく学習できるように仕向けていきましょう。
「日本人生徒は、計算はよくできる!」と言われた時代がありました。文章問題は英語力に左右されますが、計算なら言葉は必要ありません。早く正確にできる子どもにとっては、それが自信につながっていたようです。

② 特技があれば、現地校でよく開催される『タレント・ショー』で披露しましょう。

皆を「あっ!」と言わせることもできる特技。例えばピアノやバイオリンが弾けると、結構、友達が
認めてくれたりします。得意なスポーツでアピールするのもいいでしょう。バンドやスポーツクラブに入って、そこで活躍の場を見付けることで、異文化の中でサバイブできているという実感を味わうこともできます。学校は教科だけでなく、総合的に学ぶところです。何か一つ得意なものがあることで、周りから認められるということは、大きな自信に繋がります。

③ 参加できない授業時間に、許可を得て英文法などの勉強をしましょう。

サイエンスなど難しい教科の時間、ただクラスで座っているのであれば、担任教師に許可を得た上で、
英文法などの勉強をするのも一案です。暗闇の世界の中で無駄な時を過ごすより、有効的な時間の使い
方であると同時に”劣等感”からの開放になるでしょう。

(3)親子 二人三脚で!

「辛いのは自分だけ!」と考えがちな人間ですが、苦境に立たされたとき、その困難を家族で分かち
合うことが、一番の解決策であると言えます。
海外では、子どもだけでなく親も自信喪失に追い込まれるのが常です。日本で学んだはずの英語が役に立たない、伝えたいことの半分も伝えられなかった悔しさ、習慣の違いから恥ずかしい思いをしたとき、ストレスの塊が体内を駆け巡ります。苦労をしているのは子どもだけではない、親も同じです。異文化社会の中で親も子も同じ体験をすることで、助け合いの精神が生まれ、自信喪失に歯止めがかかることがあります。その体験こそ、家族の絆を深めることができる、良いチャンスであるとも言えます。
まず、母親の苦労も子どもに見せましょう。「お母さんも英語圏での生活に四苦八苦している。自分だけじゃない!」と子どもに感じさせること。すると何故か頑張れるものなのです。
次に学習の全面的なサポートです。保護者も現地校に通っているつもりで、毎日の学習に取り組んで下さい。アメリカの分厚いテキスト(教科書)は、親の英語教材にもなりますので一挙両得!
毎日、持って帰るたくさんの宿題も、子どもと一緒に取り組みましょう。最初のころは”親の宿題”ですが、答えなどは子どもに書かせます。リサーチして、それをレポートにする課題も、試行錯誤を繰り返しながら一緒にできます。また現在、学校で学んでいる授業内容の大要を把握し、或いはテキストを少しずつ訳して、子どもに伝えておくのも効果的です。授業を受けるに当たって、内容が十分理解できなくても、今、どのような授業が進められているのかが漠然と解るからです。
現地校の学習サポートに加え、更に日本語学習の宿題をみることも保護者の重要な仕事ですから、気の抜けない毎日です。

 アメリカでも多くの日本人子女が、現地の学校で教育を受けるために頑張っています。そして日本人として日本語による学習も続けています。異文化での生活は苦労も伴いますが、親子二人三脚であらゆる苦難を乗り越えてきた家族は、日本の社会だけでは得られない素晴らしい体験を積み重ね、強い忍耐力、精神力を育み、家族の絆を強固なものに育て上げた自信にみなぎっています!!

(公益財団法人)海外子女教育振興財団
月刊誌「海外子女教育」に掲載