「親は英語が苦手です」

日米教育お役立ち情報

~現地校の先生と、どのようにコミュニケーションを取ればいいのでしょうか。~

 外国語習得が苦手な「日本人」と言われていますが、海外(例えば英語圏)で生活していく上で「英語は苦手!」と言って、消極的な態度ばかりとっているわけにはいきません。
現地の学校に子どもを通わせる以上、親が教師とコミュニケーションを取ることが不可欠となります。慣れない英語での対応に迫られるわけですが、何らかの策を講じることによって切り抜けていくことはできます。言葉が流暢であるから誰とでもコミュニケーションが上手く取れる、というものでもないようで、例え英語が苦手でも、礼儀正しく真摯な態度で相手に接することで、必ず意思の疎通を図ることはできるものです。

(1) まず、先生に顔を覚えてもらうことから

学校の先生は、預かっている子どもと保護者の顔を覚えることから始めます。学校行事などには積極的に参加して「私は、○○の親です。」と、挨拶をしておきましょう。
多くを語る必要はありませんので「まだ日本から来たばかりで、英語力に問題がありますが、努力させますので宜しくお願い致します。」などの内容で少し話しておくと、先生も「よし、面倒みてあげよう。」という気になります。
英語に自信がないからと云って、親が先生に挨拶さえしない態度では、先生も子どもに愛情を持つことができません。

(2) 学校行事での対処法

<学校行事、クラスでのボランティア>
アメリカの学校教育は、保護者の支援なしには成り立たないシステムになっています。学校行事や
授業の中でボランティア活動することを求められますので、英語が苦手な保護者は、あまり言葉を必
要としないところから始めてみてください。学校からのボランティア・リスト配布や、担任教師から
の依頼もあります。雑用の手伝い、フィールドトリップ(遠足)の付添い、クラス内で行うイベン
ト等がありますので、勇気を出して参加してみましょう。
例えば、親が子どものクラスにボランティアとして入れば、子どもも安心しますし、先生にも良い
印象を与えます。「私は、協力していますよ。」という態度を示すことこそ、言葉よりも重要ではな
いかと考えます。

<個人面談>
小学校では、年2回ほど個人面談(Conference)が実施されます。できるだけ両親で出席すること
が望ましいですね。都合で、英語が苦手な母親一人での出席になる場合、教師への質問等はメモ用紙
に記して、それを見ながら話すこともできます。しかし、返って来た回答が十分理解できないのは当
然で、例えば難しい事柄ならば、書いてもらう方法もあります。
その他の方法として、何か問題がある場合は日英両語ができる人に依頼し、通訳として同行して
もらいましょう。

<教師への依頼の仕方>
米国の公立学校は国籍を問わず、保護者が州に税金を納めていれば、義務教育期間の子どもはいつでも受け入れています。ただ現場の最先端にいる教師は、英語が第二言語の人々の扱いに苦労もあるようで、慣れている先生、慣れていない先生の対応は様々です。
子どものことで先生にお願いごとや疑問がある場合、必ず会って伝えるようにして下さい。その場合、ただ一方的に「○○して下さい」とか「うちの子供への対応が悪い」等と言うのではなく、「我々も努力しますので、先生も検討していただけますか。」という言い方で伝えましょう。米国の場合、こちらから申し出をしない限り対応は期待できないお国柄ですから、教師に親の考えや希望を伝えることは、非常に大切なことです。沈黙は罪! 日本のように、こちら側の動向を相手が察して対応してくれることはありません。
以前、ある母親から教育相談がありました。現地校に編入したばかりの子どもが、クラスでテキスト(教科書)を貸与されない、宿題を与えてもらえない、どう対処したらよいのだろうかという相談でした。この様な場合、ただ一方的に教師の対応を責めるのではなく、その理由を聞き、親の希望をリクエストしてください。教師は納得すれば、必ずそれを受け入れてくれるでしょう。
この教師は、子どもに英語力がないということでテキストや宿題を与えなかったのだと思いますが、親は子どもがクラスの中で「お客様」で居ることに不満を持っています。このような場合「子どもは、今は英語習得途上ですが、親子で挑戦しますので宿題を与えてください。英語の勉強にもなりますから。」と伝えましょう。宿題の内容、提出状況が成績に影響する現地校ですから、親が手伝ってでも、宿題は必ず提出するという習慣を子どもに付けたいものです。
何とかしてあげたい、何とかしたい、という教師と保護者双方の子どもへの思いは同じで、保護者の依頼の仕方により、教師の子どもへの対応が大きく変わってくるようです。
話すことが苦手な保護者の場合、教師へのお願いを手紙にして渡せばよいと考えがちですが、教師は、保護者から手紙を受け取るということは、フォーマルな申し出であると受け取る可能性があります。お互いに誤解を招かないようにするためにも、できるだけ会って話をした方がよいようです。

(3)英語的思考を理解

日本語的思考で英語圏の人々に語りかけても、理解されないことが多々あります。英語的思考やその国の習慣をできるだけ理解して、意思の疎通を図るようにしたいものです。

 日本人なら、多くの人が会話の最後に「宜しくお願いします。」という言葉を使います。曖昧ですがどのような場合にでも通用する便利な言葉ですね。
例えば、担任の先生に言葉を理解していない子どもを預ける場合、親心から「まだ何も分らないので、どうぞ宜しくお願いします。」と、気持ちを伝えようとします。しかし英語の世界には、まだ起こっていないことに対して、相手に「面倒をみて下さい」と云う習慣がありません。「子どもは、まだ英語ができていないので宜しくお願いします。」というニュアンスで伝えたい場合、「○○に対して、忍耐強くいてください。」または「少し我慢してください。」という言い方をします。
「My child has limited English skills, so I’d appreciate with it if you could have some patience with him/her」
このようなセンテンスをメモに書いておいて、それを見ながら話されることでもよいかと思います。

(4)母親は英語が苦手でよい!!

「ことば」は、人と人とがコミュニケーションを取るための道具です。その道具を十分に活用できないとき、人はストレスを抱えることもあり、生活をしていく上で困難を伴うこともあるでしょう。しかしそれは大した問題ではなく、いくらでも誰かの手を借りることができます。
しかし親には、人に任せられない大切な任務があります。それは、我が子を一人前の大人に育て上げるといことです。
海外においては、一日のうち子どもに接する時間が長い母親は、子どもの母語を育てるという重要な役割があります。従って、私は母親は英語が苦手でよいと考えています。
最近では留学経験がある親、かつて帰国生と呼ばれた親が増えてきています。海外での生活はもちろんのこと、学校の教師とコミュニケーションを取ることなど何ら問題なく、一見、羨ましく感じられるかも知れませんが、子育てに関しては要注意です。
母親の対応によっては、家庭内で英語と日本語が飛び交い、母語育成の妨げになる可能性があるからです。ぜひ、家庭の中では日本語で生活するように心がけてください。母親は、家の中ではきれいな日本語で会話し、様々な知識や情報を子どもに伝えること、これらの努力を絶対に惜しまないで欲しいと考えています。
母親は英語が苦手で構いません。頻繁に学校に出向き、積極的にボランティア活動をして下さい。必ずや教師と上手くコミュニケーションを取ることが出来るようになります。

(公益財団法人)海外子女教育振興財団
月刊誌「海外子女教育」に掲載